阿弥陀三尊来迎図

(あみださんぞんらいこうず)絹本著色

南北朝~室町時代の14世紀頃の制作

 

 阿弥陀三尊来迎図は極楽浄土におられます阿弥陀如来とその脇におられます観音菩薩(かんのんぼさつ)と勢至菩薩(せいしぼさつ)の阿弥陀三尊(あみださんぞん)がお迎えに来られた様子を描いたものです。 

 この図は絹地に斜め向きの形式で、三尊は蓮の台座に立ち、左上に尾をひく白雲に乗って降りてこられた様子を描き、真ん中の阿弥陀さまは来迎印を結び、頭からは光明が放射状に伸びています。向かって左の勢至菩薩は合掌し、右の観音菩薩は腰を少しかがめて両手で往生人を乗せるための蓮の台座を持っています。

主尊の阿弥陀如来
主尊の阿弥陀如来
観音菩薩
観音菩薩
勢至菩薩
勢至菩薩
クリックすると拡大(PC)
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 背景は現在は黒ずんでいますが元は群青色で、仏さまは金で彩色され、袈裟衣にほどこされた多くの截金文様(きりかねもんよう)はとても細微であり、貴重なものであります。南北朝~室町時代の14世紀頃の制作と考えられます。

本図の截金文様:麻の葉、草花、立涌、波、卍、亀甲、格子

来迎図の基、『無量寿経』第十九願


蓮台を持つ観音菩薩
蓮台を持つ観音菩薩

 この来迎図は浄土宗の拠りどころとなるお経のひとつ「無量寿経(むりょうじゅきょう)」に説かれる阿弥陀さまのお誓いに、阿弥陀さまを信じてお念仏をする人は、まさにこの世での命が終わろうとする時にその人の目の前に阿弥陀さまが直々に極楽浄土よりお迎えにこられるという第十九願に基づいて絵画化されたものであります。

*『無量寿経』巻上の第十九願*

原文:

設我得佛 十方衆生 發菩提心 修諸功德 至心發願 欲生我國 臨壽終時 假令不與大衆圍繞 現其人前者 不取正覺

 

書き下し:

もし我れ仏を得たらんに、十方の衆生、菩提心をおこし、もろもろの功徳を修し、至心に発願して、我が国に生ぜんと欲せんに、寿終の時に臨んで、もし大衆のために囲繞せられて、その人の前に現ぜずんば、正覚を取らじ。

 

現代語訳:

私が仏となる以上、あらゆる世界に住むすべての人々が、さとりの境地を求め、様々な功徳を積み、まことの心をもって私の国土(極楽浄土)に往生したいとの願いを発したにもかかわらず、命を終えようとする時、多くの聖者たちとともにその人の前に現れ出ないようなことがあるならば、私は仏となるわけにはいかない。

 

ここでの「私」とは阿弥陀仏がはるか昔、未ださとりを開いて極楽浄土を建設する以前の修行時代(名前、法蔵比丘:ほうぞうびく)を指します。この誓いを含めた48種の誓いを成就したあかつきに、現に阿弥陀仏となって極楽におられるのだという教えです。 浄土宗の教えは、いざというときはどんな状況でも阿弥陀さまが迎えに来てくれることを信じ願って様々な功徳、とりわけまずは日々念仏に励むことを第一とします。

参考:阿弥陀三尊を含めた多くの聖者が迎えに来る様子
参考:阿弥陀三尊を含めた多くの聖者が迎えに来る様子
参考:右の亡者に蓮台を差し出す観音菩薩
参考:右の亡者に蓮台を差し出す観音菩薩

 つまり、このお迎えによって亡くなる者はあらゆる現世の苦しみから解かれ、差し出された蓮台に乗って極楽浄土へ行き、じっくりと四十九日の中陰(ちゅういん)を経て往生(往き生まれる)を完遂するという教えを示した図であります。